天然の雲母鉱石、極薄の層に剥がれる性質を持ち、これを細かく粉砕した鱗片形状の粒子をパール顔料のベースとする

パール顔料にはいくつかの種類がありますが、どれも魚の鱗の様に平べったい形をした粒子になっている点が共通しています。
この平面に反射力を持たせ、表面で光が反射する事によりメタリック感、パール感を生じます。
最もポピュラーなタイプは雲母(マイカ)を粉砕した鱗状の微細な粒子の表面に二酸化チタンをコーティングする事で表面に反射性を持たせた、
「雲母チタン系(チタニウム・マイカ系)」
と呼ばれるタイプです。[図2]
(雲母堂本舗の粉末状パール顔料は全てこのタイプになります)

雲母、二酸化チタン、どちらもパール顔料として使用されるサイズでは透明に近い状態なので、顔料、塗料として使用した場合も半透明となり、下地の色が透けて見える事になります。

雲母チタン系に限らず、こうした反射性の顔料は共通して、
「同じ種類の顔料であれば、粒子径が大きくなるほどに反射力が増し、逆に粒子径が小さくなるにつれて反射が弱くなる」
という性質を持ちます。

つまり、他の条件が同じであれば反射力と粒子径はトレードオフの関係になる、という事です。

実際、パール顔料の粒子はある大きさ以下になるとほとんど反射がなくなり、真珠効果、メタリック効果を示さないただの半透明な乳白色でしかなくなってしまいます。
殆どのパール顔料が目に見えるくらいに目の粗い粒子になっているのはこの理由によります。

雲母チタン系(チタニウム・マイカ系)パール顔料の基本構造断面図

粉末状のパール顔料は通常、クリアの塗料に混ぜてパール塗料にして使用します。原則としてエアブラシによる塗装に向いています。

パール塗料に通常の色付き塗料を混ぜる使い方も有効な技法ですが、 この場合注意が必要なのは「白が混ざった塗料は避ける」という点です。
白はパールと直接混ぜた場合にパール顔料の反射効果を著しく阻害するため、パール効果が大きく減じてしまうのです。

パール塗料と通常の塗料を混ぜる場合は、調色用原色のように透明度が高く白が混ざっていない塗料が適しています。
具体例としてガイアカラーの純色シリーズはこの目的に適しています。

鮮やかな発色が欲しい場合にはカラークリア塗料や一部のカラーインクも同様な使用法で有効ですが、これらは染料である事から滲みなどの問題が発生するので、重ね塗りやクリアコートをする場合には注意が必要となります。

雲母チタン系を代表とする、表面に二酸化チタンをコーティングして反射面を作るタイプのパール顔料のバリエーションです。雲母堂本舗製品では、FGパール6色とVGパールの虹彩色タイプ6色がこの種類になります。

MGパールやAGパールの様な通常のホワイトタイプのパール顔料は全ての波長の可視光を均等に反射します(反射されなかった成分は顔料を透過しますが、この透過光も全ての波長を均等に含んだ構成になります)。このため特定の色がつかずに白く見えるようになっています。

雲母ベースに反射層を作る表面の二酸化チタン層は極めて薄いのですが、このコーティング厚の厚さを厳密に制御する事によって特定の波長の光だけを表面で反射する性質を持たせる事ができます、これが虹彩色パールです。

シャボン玉の表面や、水面に油が浮んでいる時などに虹色が見える現象がありますが、これらは本来透明なシャボン玉の膜や油膜が可視光の中の特定の波長(色)と干渉する厚さになったため、光の回折が起こる事で見える色効果です。
(雨上がりの虹や、プリズムによる分光現象と同じ原理によって生まれる色です)
虹色に見えるのは膜の厚さが微妙に違う部分があるため、それぞれの厚さに対応したそれぞれの色が見えている状態です。

ざっくりと言えば「ある特定の厚さを持つ透明膜を作ると、その厚さに対応した特定の波長(つまり特定の色)の光だけを表面で反射する性質を持たせる事が出来る」事になります、これが虹彩色パールの発色原理です。 [図3]



虹彩色パールを実際に使用してみるとわかるのですが、下地の色によって非常に大きく発色が変化する性質を持っています。この点を理解する事が使いこなしの重要なポイントになるので、ここからはそのメカニズムを詳しく説明してみます。

まずは大まかな言い方ですが基本的に、
「虹彩色パールは下地の色が濃いほど強く発色する」
と理解して下さい。
(もう少し正確な言い方をすると、「下地色の明度が低いほど強く発色する」わけです)

FGパールやVGパールの色見本を見ると白、グレー、黒と下地色が濃くなる(明度が下がる)につれて強い発色になっていくのがわかると思います。[図4]

ここからは何故こういう事になるかの概略説明です。

まずは太陽光のような白色光は、様々な波長(色)の光が合成されて白く見えている、という基本をおさえておきましょう。

ここでは簡略化のため、赤、緑、青の三色に分けて考える事にします。
(いわゆるRGBです)

これらの光を全て均等に反射する表面があった場合、私達はその表面を「白い」と認識します。青い光だけを反射して返す表面の場合は「青い」と認識するわけです。

様々な色の反射率グラフ、横軸が波長。白、グレー、黒では全ての波長で反射率がそれぞれほぼ均等なのに対して、有彩色では波長によって大きく反射率が異なっているのがわかる。

通常、色がついて見える表面というのは、ある特定の波長(色)の光だけを吸収する性質を持っています。
吸収されなかった残りの色成分の波長(色)だけが表面で反射される事になり、言わばその「残りの色」の波長成分がその物体の色、という事になるわけです。
具体例で言うと「青」い表面というのは、白色光の中で青以外の光成分である「赤と緑」を吸収して、残りの青成分だけを反射して返す性質を持っているわけですね。[図5]

虹彩色パール顔料はこうした通常の物体色を持つ表面とは違い、特定の波長を吸収する性質はありません、従って「物体色」としては無色の物質になります。
しかし光の回折現象によって表面で特定の波長の光を反射する性質を持っている事によって色が見えるわけです。
(こういう原理による発色を「構造色」と呼びます。ある種の蝶や昆虫の羽根などが有名で、いわゆる「玉虫色」と表現されるのがこれです)

それでは具体例として、虹彩色パールのブルーに白色光があたった場合にどういう事が起こるかを考えてみます
この顔料では表面で青い光だけが反射されるので、この反射光だけが目に入れば青く見える事になります。
しかし基本で説明した通り、虹彩色パールは透明に近い状態になっているため、表面で青い成分だけが反射された後、それ以外の赤と緑の光は顔料を透過します。

ここで「下地色」という要素が重要な役割を持つ事になります。
下地が赤、緑の光を吸収しない色だった場合、表面で反射されずに透過した赤と緑の光は下地でそのまま反射され、再度顔料を透過して表面で青い光と再び混ざります。
つまり、またほぼ元のような白色光に近い成分構成になった光として表面から出る事になるわけです。

実際、下地が白だった場合はこの通りの事が起こります。 白地の上に塗った虹彩色パールの色見本がほぼ発色せず白っぽく見える理由は以上のメカニズムによります。[図6a]

次に、下地が赤や緑の光をある程度吸収する性質だった場合はどうなるかを考えてみます。

この場合、顔料を透過して下地に届いた赤と緑の光は、その何割かが下地に吸収され、残りが反射されて出て行く事になり、結果として表面からは赤と緑の成分が何割か減衰した成分構成の光(要するに「薄い青」に見える光)が出る事になります。
具体的には、グレー下地がこのケースに相当します。グレー下地に虹彩色パールを乗せた色見本では、それぞれの色味が薄く出ています。[図6b]
グレーというのは図5のグラフ[図5]にもある通り、全ての波長の光を均等に何割か吸収し、残りを表面で反射する状態の色です。
グレーが濃くなるというのは、吸収する割合が増え、その分表面反射が減るという事と同じ意味になりますので、当然グレーが濃くなるにつれて虹彩色パールも強く発色するようになっていくわけです。



これを押し進めて、赤と緑の光をほぼ全て吸収するような下地になった場合を考えると、透過した赤や緑の光は下地で吸収されて表面に戻ってこなくなり、青成分の光だけになるので一番濃く発色する事になります、具体的には黒下地がこれにあたるわけですね。[図6c]

他の色の虹彩色パールでも基本は同様、表面である特定の色だけが反射され、それ以外の色は透過するわけです。

他の色の虹彩色パールでも基本は同様、表面である特定の色だけが反射され、それ以外の色は透過するわけです。

ここまでの説明で気付いた方もいると思いますが、色の要素を通常の塗料の様に「赤、黄、青(色の三原色)」ではなく「赤、緑、青(光の三原色)」で説明しています。
これはここまで解説してきたように虹彩色パールの発色が光の干渉で生じる分光現象によって起こるためで、虹彩色パールを活用する上で重要なポイントになります。

具体的な実用面で最大の注意点となるのが虹彩色同士での混色についてです。虹彩色パール同士の混色では通常の塗料における混色の基本である「色の三原色(減法混色)」の原則が通用しません。

FGパールのオパールレッド、オパールグリーン、オパールブルーを使用、下地は全て黒

虹彩色同士で混色を行うと、混ぜる事によって彩度が大きく下がり、発色効果が著しく落ちてしまうのです。虹彩色パールの発色を最大限に活用しようとする場合、混色はせずに単色での使用が得策と言えるでしょう。[図8]

ただ、注意して貰いたいのは、これはあくまで「虹彩色同士」を混色する場合に限った話だ、という事です。
虹彩色パールとホワイトパールや、酸化鉄パール、顔料着色パールを混ぜて使う事には基本的に問題はありませんし、通常塗料の調色用純色やクリアカラー、カラーインクなどを混ぜる事も技法として有効な物と言えます。 (白が混ざった色を避ける原則は基本で述べた通りです)

雲母(マイカ)ベースに酸化鉄(酸化第二鉄)をコーティングして反射面を形成したパール顔料です。
酸化第二鉄というのは要するに鉄の赤錆だと考えて下さい。弁柄(べんがら)という名前で赤の顔料としても使われる材料ですから、これをコーティングしたパール顔料も赤系の発色になります。
酸化鉄コーティング層が厚くなるにつれて色味は濃く赤味も強くなります。[図9]
(なお、ゴールドだけはチタン層と酸化鉄の2層コーティングになっています)



雲母堂本舗商品ではHGパール4色とVGパールの酸化鉄シリーズ3色がこの種類のパールです。

着色源が酸化鉄なので色バリエーションが黄赤系に限られてしまいますが、耐光性に優れている事から自動車塗装に採用されることが多く、ポピュラーなパール顔料となっています。
酸化鉄パール同士、他種パール顔料との混色、どちらも基本的に問題なく行えます。
(雲母堂本舗の「HGパール全色セット+1」にMGパールが入っているのも、混色の際に「白」として使用するためです)

有色の酸化鉄コーティングによって着色されているため、ホワイトパールや虹彩色パールほどの透明度ではありませんが、ベースが透明なのである程度の透過性があり、下地の色が透けて発色に影響が出ます。
(これは虹彩色とは違い、通常色でも良くある下地色が透ける現象と同じ事です)
色見本では虹彩色同様に白、グレー、黒の下地に乗せて比較していますが、下地が黒味を増すにつれて色味が薄く(=彩度が低く)なる一方で、金属感は増していくのがわかると思います。[図10]

雲母(マイカ)ベースに二酸化チタンがコーティングされたホワイトパールの上から、更に有色の顔料をコーティングして着色されたパール顔料です。[図11]
雲母堂本舗商品ではCCパール8色がこの種類になります。

CCパール構造断面図、通常のマイカ系ホワイトパールの上からさらにそれぞれの色の有色顔料がコーティングされている

簡単に言うと「ホワイトパール顔料の表面に透過性のある色コーティングを施した顔料」です、白地の上に色フィルターを乗せるような着色と考えて下さい。
着色源が染料系ではなく顔料コーティングなので色にじみが起こらず、光に対する耐久性も通常の顔料系塗料に近いと考えられます。

発色原理が通常の物体色なので混色も一般的な「赤、黄、青(色の三原色)」の原理で問題なく行えます。[図12]

CCパールのプライマリ6色セットには、混色を前提として三原色の赤、黄、青とそれらの2次色となる橙、緑、紫の3色の計6色をセットにしてあります。

他にMG、AGなどのホワイトパールを白、CCパールのMCブラックを黒として使う事で混色に必要な一通りの原色がそろう事になるわけです。

酸化鉄パールの項で説明したのと同様に、顔料着色パールも透過性があり、下地色が発色に大きく影響します。下地の黒味が増えるにつれて色味が薄く(=彩度が低く)なる一方で、金属感は増していくのも酸化鉄パールと同様で、特に黄色、赤系で顕著です。鮮やかな発色を望む場合には白、あるいはそれぞれの同系色が向いています。

「オキシ塩化ビスマス」という化合物が鱗片状になったホワイトパールの顔料です。雲母チタン系に比べ、反射力がとても強い点が最大の特徴です。
基本的な反射力、輝度が強いため、雲母チタンパールと比較すると同じ粒子径でも格段に強い反射効果が得られます。

反射力が強いため、白地の上に乗せてホワイトパールにした場合でも、雲母チタン系ホワイトパールに比べてより真珠感が強く、深みのあるパール表現になります。
また、黒味のある下地に乗せると金属顔料に近い輝きのメタリック・シルバーが表現でるのも大きな特長です。

金属顔料のメタリックは上からクリアを乗せると粒子の配列が乱れ、金属感が大きく減じてしまう性質があるのですが、ビスマスパールではこうした現象が起こりません。
従って、上からクリアコートしてあるシルバー表現や、シルバーの上からクリアオレンジを乗せるゴールドの表現などにおいて大きな力を発揮します。

また、金属顔料のシルバーは黒味を含んでいるため、黄色や赤のように少しの黒味でも発色が悪くなる色を鮮やかに発色させる事が極めて難しくなります。
(シルバー地ではメタリック・イエローやメタリック・ピンクの表現はまず不可能でしょう)
この点、ビスマスパールは黒味を一切含まない一方、反射力は金属顔料シルバーと遜色ないレベルですから、様々な色によるメタリック表現が可能になるわけです。

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